わが国でも高齢者の居住環境は大きな問題であるが、本研究では、先進的な福祉国家であるデンマークを対象として調査研究を行い、次の3点について成果をまとめた。 第1は、デンマークにおける高齢者を対象とした福祉・医療政策と住宅政策との関連を整理し、変遷をまとめた点である。この結果、生活を保障する制度として福祉が成立し、生活保障の最も基礎的なものとして住宅が位置付けられ、福祉資源の充実とともに在宅居住へと発展・変遷していく関係を明確にした。 第2は、資料による事例の計画分析ばかりでなく、コペンハーゲン市内を対象として2度にわたって訪れ、高齢者向け住宅・居住施設の事例に関する資料収集を実施した点である。デンマーク王立アカデミーの教授を訪ね、近年の動向について聞き取り調査を行った結果、数戸で共同生活する高齢者向け住宅という新しい事例の紹介を受けた。18世紀のものから現在に至るまで、調査対象とした事例については、平成10年8月と平成11年12月に現地踏査を行い、入居者、運営者からも住生活の内容と建築的な評価について実態を採取した。デンマークの場合、高齢者の居住する場は基本的に住宅であり、種々の生活サービス施設が近距離にネットワークを持ちつつ計画され、グループ居住を行うタイプも供給されているという実態を明らかにした。 第3は、これらの調査・分析を通じて、デンマークにおける現在の高齢者の居住形態は、居住してきた住宅に継続した住み続けることが原則であり、それを実現する福祉・医療制度が歴史的発達の中で形成されてきた成果であるという指摘を行ってまとめた。また、わが国の高齢者居住の方向についても、在宅居住が望ましいことと、そのための住宅計画のあり方についても示唆している。
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