研究課題/領域番号 |
10650624
|
研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
川崎 清 立命館大学, 理工学部, 教授 (40025888)
|
研究分担者 |
三宅 英一郎 立命館大学, 理工学部, 助教授 (60268159)
|
キーワード | 発生的空間構成、 / 環境と行動の弁証法、 / 運動感覚、 / 空間構造、 / シンボル的表現、 / 集落祭礼 |
研究概要 |
日本の伝統的な都市空間や建築は、西欧の形態的に明確な空間(Form)に比較して、その周囲の空間との視覚的な境界が曖昧であり、相互に浸透しており、その意味は多義的で重層的あるという理解は、一般的であると考えられる^<註1>。その空間は生活者の行動により使い分けされて、その度ごとに行動の姿を含んだ、一時的で現実的な空間の姿(Shape)を作り出している。この空間構造を客観化するために、空間の姿(Shape)を環境と行動の相互関係の駆け引き(Tactics)として捉え、「環境と行動の弁証法」^<註2>と定義する。本稿では環境と行動を媒介するものとして人間行動の運動感覚を空間知覚の概念として用い、行動の立場に考察の視点をおいて空間構造の分析を行う。行動の運動感覚を媒介とする「環境と行動の弁証法」による空間構造の形式を「発生的空間構成」^<註3>と定義する。 都市は農村と比較して富と権カが集中して成立している文明現象であると一般的に理解される。それを空間的立場からみると、都市と農村を区別するものは都市は多くの人が居住し、多くの人が集合する空間である^<註4>。都市の用語を上のように理解すると、3種類の都市の概念が導かれる。第1は多くの人が居住するが、外部からはあまり集合しない都市、第2は多くの人が居住し、多くの人が集合する都市であり、第3は居住する人は少ないが、外部から不特定多数の人が集合する都市の概念^<註5>である。この都市の第3の概念である、一時的に不特定多数の人が集まる集合性と求心性が空間的な特質である都市の概念に対して「都市的空間^<註6>」の用語を使用する。都市的空間の「下位概念」として道空間や寺社境内などの広場的空間、界隈^<註6>空間などの空間形式の可能性が考えられる。 本稿の目的は祭礼^<註7>を事例として都市的空間の発生的空間構成を客観化する方法概念の基礎的研究である。ここで論究される方法は運動感覚を媒介にして、祭礼行動と祭礼環境の弁証法の図式化^<註8>である。更に都市的空間に日本の都市空間の原型^<註9>を見る可能性である。この都市空間の概念は地理的な農村と都市的空間の共時性と重層性の可能性を内在的に構成しており、その可能的な一般性の事例として近江小津神社の祭礼を取り上げている。小津神社の祭礼^<註10>は、その地理的な位置は滋賀県守山市という上の第1の類型の農村的な郊外都市に所在している。しかし、その祭礼は1集落の祭礼ではなく、氏子11町の郷社の祭礼であり、当の11町以外の外部からも群衆する。小津神社の様な郷社は、歴史的な変遷を経て現代では地理的に農村に所在していても、祭礼時には広域から人が多く集まり、一時的な「都市的空間」を構成するものがある。 祭礼は儀礼形式の歴史的変遷を経ながら、その新しく始行された規範の再現儀礼である。そこに再現されている風景はそれを成立させた共同体の社会組織構造と姿を解釈するためのシンボル形式の資料でもある。本稿ではシンボルの解釈には精神分析^<1)>の方法^<註11>を適用した。この方法と先行研究資料^<註10>および諏訪家文書^<註12>の内容を比較検討することにより、祭礼の解釈に新しい意味の追加を試みた。この方法は文字資料が不十分な状況における日本の伝統的な空間のシンボル解釈の客観化のための有効な手段であると考えられる。
|