日本近代建築のアメリカの影響について、スパニッシュ様式を中心に研究した。日本近代建築におけるスパニッシュ様式は、スペインからの影響ではなく、アメリカの旧スペイン植民地の建築様式を源としている。 下記調査を行い、近代日本に流行したスパニッシュ様式の実体を明らかにした。 1) 文献資料の収集 戦前発行され、そのほぼ全巻が閲覧可能な建築専門誌11誌を中心に調査し、日本のスパニッシュ建築に関する資料を可能なかぎり収集した。その結果、500棟近い数のスパニッシュ作品、およびスパニッシュ様式の影響が認められる作品を収集することができた。また、アメリカのスペイン系建築様式(「ミッション」、「スパニッシュ・コロニアル・リヴァイヴァル」)に関する資料を収集し、アメリカの作品と比較することにより日本のスパニッシュ様式の特徴をより鮮明にすることができた。 2) データベースの作成 上記文献に基づく建築のデータを、竣工年、旧名称、現名称、設計者、施工者、所在地、用途別に分類し、(1)年代別日本近代スパニッシュ一覧、(2)地域別一覧、(3)建築家一覧として収載表示した。また日本近代スパニッシュ建築画譜として、収集したデータのうち日本人建築家によって満州、朝鮮、台湾に建てられた作品と、スパニッシュ要素の薄い作品を除いた375件のデータと図版を公開する。 3) データの考察 年代別分類により、スパニッシュ様式の発生時期から流行の年代が1928年から34年頃をピークとする経緯が明らかになった。地域別では東京、神奈川、京阪神に集中していることが判明した。所在地の判明するものについては現地調査を行い、所有者にインタヴューを行い、内部の確認、使用、保存状況など詳細を把握することができた。建築家別ではあめりか屋、ヴォーリズ建築事務所、大林組の活躍が明らかになった。用途別では、圧倒的に住宅が多いことが確認できた。またスパニッシュ様式が流行した要因として、背景に住宅改良運動があったこと、スパニッシュと和風の相性の良さに着眼した関西建築界の父・武田五一の影響力、東洋建築(日本の土蔵造りなど)との共通点、と同時にモダニズムとの共通点があったことを指摘した。
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