本研究は、ふたつの側面での進展を見た。ひとつは近代建築保存に関する国際的な動向を把握し、それをわが国の研究体制のなかに組み入れてゆくことであり、他の側面は日本における近代建築の保存のための理論構築を行なうことであった。両者はともにきわめて実践的な目標をもつものであり、その成果もまた現実的なものとなった。 第一の側面においては、ストックホルムで開催されたDOCOMOMOの総会に出席し、日本における近代建築の流れとその保存について発表した。この結果は日本に持ち帰り、日本建築学会にDOCOMOMO対応の委員会を設けることができた。現在この委員会は日本の近代建築のリストを完成している。 また、保存に関する理論的枠組みとしては、重要文化財に指定された建造物については、その容積を不算入にしてその分業務用の床面積を上乗せするという手法を提起した。これは実際の再開発において都市計画当局からも理解を得られ、日本橋の三井本館の文化財指定、また丸の内の日本工業倶楽部の建物の再開発においても一定の影響を与えることができた。これらは都市の中心部に建つ近代建築の保存に大きな影響を与える物件であり、他の都市、他の建築物にも波及効果を及ぼすものと期待されている。 以上の成果を得ることができ、研究を実際の保存の理論と手法に結び付けることに成功した。今後、さらに研究組織と実際の保存手法の連関を強め、都市の文化的遺産の継承に務めてゆく必要がある。
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