東海・北陸地方に現存する近世の三重塔3基・五重塔11基の遺構について、トータルステーションを活用した実測や文献からのデータに基づき、その設計手法の考察を行ったところ、次のような成果が得られた。 1.トータルステーションの〈壁面座標計測〉測量プログラムを使用することにより、従来足場を組んで綿密な直測量を行わなければ不可能であった、各層の相対的高さ・軒反り曲線・相輪寸法などを、足場なしで簡便に相当な正確さで得られるという有効性が実証された。 2.木割書における層塔の設計手法は、年代が新しくなるにつれ、枝数逓減は「中ふくら」から等差逓減へ、柱太さは各重一定とするものへ、全体として合理的で簡潔なものへと移る傾向がみられる。しかしながら、今回調査した東海・北陸地方の近世層塔においては、各遺構の設計手法は必ずしも木割書の変容傾向に対応しておらず、初期のものに合理的手法が、逆に末期のものに各層毎の変化工夫が払われているものがみとめられた。 3.腰相高さの決定方法については、各遺構でさまざまな設計時の工夫がうかがえ多様であるが、柱太さについては遺構の半数以上が二重目以降の柱太さを一定としており、柱間逓減も多くの遺構が等差逓減となっている。台輪・長押せいの決定基準もすべての遺構で柱太さを基準としており、組物の寸法も柱太さまたは大斗幅を基準としている。このように、近世層塔遺構の木割組成には、特定の木割書と断定できないものの、多くの点で木割書との合致がみとめられる。
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