12世紀後半から14世紀初頭にかけて描かれた説話絵巻7作品『伴大納言絵詞』、『吉備大臣入唐絵巻』、『能恵法師絵詞』、『直幹申文絵詞』、『長谷雄草紙』、『男衾三郎絵詞』、『絵師草紙』について『日本の絵巻』、『続日本の絵巻』(中央公論社刊)から平行投象的手法によって描かれた場面を抽出し、建築構造体・調度などの奥行きを示す斜線角度や長さを計測し、その数値から図形科学的に視線方向を求め、建築空間の絵画的表現を分析し、次の特徴を指摘した。 1.建築構造体・調度が描かれた107場面において、角度計測可能なもの90の内、右斜線図75、左斜線図14、両斜線図1について分析した。吹抜屋台が15場面。 2.斜線角度の平均について、右斜線図44.7゜、左斜線図40.8°、両斜線図の右斜線42.0゜、同左斜線18.3°。 3.視線方向角度の平均について、右斜線図俯角29.1゜、同方位角58.5゜。左斜線図俯角26.0°、同方位角124.4°。両斜線図俯角29.3°、同方位角86.7°、同回転角29.6°。 4.『能恵法師絵詞』の右斜線図の視線方向設定は、俯角(24.8〜34.9°)、方位角(48.0〜68.1°)とも最も広範囲にわたる。 5.『男衾三郎絵詞』の俯角平均は最も小さな値(24.1°)をとる。 6.『絵師草紙』の視線方向設定は、俯角(30.1〜32.1゜)、方位角(53.1〜56.4°)とも最も狭い範囲であり、視線の向きがほぼ一定している。
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