この研究の大きな目的は、北欧各国の文化一般および建築において、19世紀末から20世紀初頭に登場した「ナショナル・ロマンティシズム」と呼ばれる概念を取り上げ、その内容を分析して歴史的に定位させることにある。 まず資料の収集に関しては、当初の研究実施計画どおり、本年度は国内に所蔵される資料を探索して、その利用の可能性を広げることに努めた。東京への資料収集旅行を1回行い、日本建築学会図書館(東京都港区)などに所蔵されている文献資料の内容把握をめざした。こうした基礎的な作業は来年度も継続してゆく予定である。 1998年はフィンランドのモダニズム建築家アルヴァー・アールトの生誕100年にあたったため、世界各国において彼の作品に関する研究の大きな進展が見られた。そこで本研究でも、その内容を吸収し発展させることで、当初の実施計両で想定していた範囲を上まわるナショナル・ロマンティシズムからモダニズムへの建築の連続性に関する新たな知見が得られた。専門誌「建築文化」のアールト特集号に掲載された作品分析(2回)、およびセゾン美術館でのアールト展のカタログに寄せた論考に、その成果の一部を発表した。これらを通じて、ナショナル・ロマンティシズムの建築概念の中に含まれる自然環境に対する意識を正当に評価することが、フィンランド建築全体に対する本質的な理解に到達する必要条件であることが判明した。 来年度の継続研究では、当初の予定どおりナショナル・ロマンティシズム期自体の住環境形成に焦点を当てて、可能であればヘルシンキその他フィンランド各地への調査・研究旅行も実施しつつ、成果をさらに論文としてまとめてゆく予定である。
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