この研究の大きな目的は、北欧各国の文化一般および建築において、19世紀末から20世紀初頭に登場した「ナショナル・ロマンティシズム」と呼ばれる概念を取り上げ、その内容を分析して歴史的に定位させることにある。 資料収集に関しては、当初の研究実施計画どおり、国内に所蔵される資料を探索して、その利用の可能性を広げる作業を継続した。東京への資料収集旅行を1回行い、再び日本建築学会図書館(東京都港区)などに所蔵されている文献資料の把握をめざした。こうした基礎資料のデータ化は、今後もできる限り続けてゆく予定でいる。 1999年は2年継続の研究の最終年に当たったため、成果を研究としてまとめる作業にも重点を置いた。まず、本研究テーマを解明する前提として、北欧における伝統的民家のあり方と、19世紀以後の近代都市の形成史の2点を想定した。前者については「ヨーロッパの家・第1巻」の掲載論文において、おもにノルウェーとスウェーデンの農家の全体配置、ログの建築構法、内部平面構成とインテリアなどの特質を論じた。後者は、「Excellent Finland」誌において都市ヘルシンキに焦点を当て、全体の形成過程から北欧的特質を抽出する試みを行なった。 その上で、ナショナル・ロマンティシズムに基づく住宅地計画の具体例として、それぞれヘルシンキ郊外に計画・一部建設されたクロサーリ地区とムンキニエミ=ハーガ地区の2箇所を中心として、その他の例にも言及しつつ詳細に分析する作業を行ない、成果報告書にまとめた。その結果、ナショナル・ロマンティシズムがめざす近代化の方向性として、自国の伝統の再構成に固執する方法と、外国の新しい手法を積極的に導入する方法があり、それが住宅地計画の中にはっきりと反映していることが判明した。今後の課題として、これらの2つの方向性が次の北欧モダニズムの中に、いかなる形で引き継がれてゆくのかを解明することが必要となろう。
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