研究概要 |
初年度は住宅組合法の概要を知るために,主に基礎文献史料の調査収集作業を行った。最初に基礎データとして,東京市政調査会が発行する『都市年鑑』(昭和11年〜昭和16年)と大原社会問題研究所が発行する『社会事業年鑑』(大正11年〜昭和16年)を調査した。そこから各年時ごとの各県別に記載される住宅組合の総数を把握し,その申請数と設立数を比較して,住宅組合における実施状況について検討した。次ぎに住宅組合法の設立時における大正10年から廃案までの昭和46年に至る新聞記事等について調査した。新聞記事には住宅組合に関するその時々の問題点や,一般市民からの世評などが掲載されている。ここではそれらの新聞記事を基に,組合法が実施された経緯や途中での法案改正,また法案に含まれる問題点や住宅組合法が廃案に至った理由について明らかにした。こうした作業を経て,欧州における建築組合を範に成立した言われる,日本での適合性について検討した。 更には住宅組合法によって成立した事例として,実際の住宅地について検証した。住宅組合法の先行研究については,東京の事例を扱った拙稿(「東京における戦前“住宅組合"の設立と組織について」日本建築学会大会梗概集'89)と福岡・北海道(池上重康ほか「住宅組合の北海道における展開」日本建築学会梗概集,'98)などの事例がある。ここでは主に北海道の事例について,3日間かけて出張し,室蘭・函館にある住宅地と郊外住宅を見学した。また関東地区の事例としては,住宅地の見学は行わなかったものの,東京都公文書館並びに神奈川県立公文書館や横浜市立図書館において,当時の文献史料の調査と史料収集に当っており,これらの史料が整理されれば,日本での実情がさらに詳しく解明されるであろう。
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