平成10年度から13年度までの4年間の研究計画の中で調査研究を進めている。本年度については、従来の研究(アイヌ民族における建築施設の成立と変遷過程に関する建築史的研究)の成果について再整理を行うと同時に、埋蔵建造物に関する基礎的資料の収集、整理を行うことを主要な目的として、調査研究を進めた。具体的な調査研究項目は以下の通りである。 1.絵画・文献資料の集成整理;いわゆる「アイヌ絵」などの絵画資料を中心に資料を収集し、住居に関わる資料の集成整理作業を進めた。具体的には「アイヌ絵」資料をデータベース化するため、写真撮影済みの資料をスキャナによってパソコンに取り込み、描かれる内容の検討、絵画情報の検索が可能な処理を行っている(平成11年度継続予定)。 2.既発掘遺構に関する報告書、文献の収集整理;本研究の主題である擦文文化期からアイヌ文化期に関わる発掘遺構の報告書、民族誌に関わる文献などについて収集、購入し、住居に関わる資料の抽出・分析を行った。 3.復元住居の実地調査;北海道内・外における復元住居について実地調査を行った。 以上の調査・整理作業をふまえて、「アイヌ民族の住居(チセ)に関する史的考察2-「西洋人」の見た近代アイヌの住居」 として研究報告の発表を行った。この論文は、従来の住居に関する固定的な概念を再構築する手段として、近世において、いわゆる「西洋人」が記録した近代アイヌの住居と言う「異文化のまなざし」のフィルターを活用して、分析を試みたものである。この論文によって、幕末・明治初期から昭和戦前期に至る近代にも様々な形態、構造、材料の住居(チセ)が存在したことが再確認でき、従来の固定化したアイヌ民族の建築・住居像を払拭し、あらたにその実相をとらえることが出来た。
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