研究概要 |
本年度は4年間の研究期間の2年目である。本年度については、アイヌ民族の平地式住居の成立と変遷過程を解明する上で重要と考えられる、いわゆる平地式住居遺構(考古学で言う掘建柱住居)に関する資料の収集、整理、分析を行うことを中心的な目的として、調査研究を進めた。具体的な調査研究項目は以下の通りである。 1.絵画・文献資料の集成整理;平成10年度に引き続き、絵画資料、文献資料を収集し、住居に関わる資料の整理作業と分析を進めた。 2.発掘報告書、文献の収集整理;本研究の主題である擦文文化期からアイヌ文化期に関わる発掘遺構の報告書、民族誌に関わる文献などについて収集、購入し、住居に関わる資料の抽出・分析を行った。具体的には、過去10年程度を目途に、近年の発掘報告書を中心に平地式住居遺構のデータを整理し、分析を行った。 3.復元住居の実施調査;北海道内における近年の復元住居や道外における復元住居について実施調査を行った。 以上の調査と前年度までの調査実績をふまえて、「アイヌ民族の住居(チセ)に関する研究ー近世アイヌ民族の住居と近代アイヌ民族の住居に関する検証と成立過程についてー」として論文を発表した。この論文では、1,近代以降、近年までの研究史の再整理。2, 近世・近代における関連史料の分析。3, 平地式住居遺構(地上に残る柱穴列遺構)の整理分析を行った。この論文をまとめることによって、絵画・文献資料から知るチセは、18世紀後半以降に限られるにもかかわらず、チセの形態が画一的にとらえられてきたこと。一方、住居遺構の整理分析から、中世における平地式住居については、その規模、構造は多様であり、その柱穴列の形式と規模の相関などから建築遺構の性格や用途についての推定方法の指針を提示できた。また、「縄綴船」の技術を持っているのにも拘わらず、チセの大きな特徴として針葉樹の大径材や割材を使用せず、広葉樹の小径材を多用する点に注目し、擦文文化期以前からの割材使用文化の断絶が意味するものについても考察した。
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