本年が4年計画の最終年にあたる。当研究課題においては、アイヌ民族の建築施設の内、生活文化の中心である住居(チセ)を中心に研究を進めた。現在、ケトゥンニ(三脚サス)2組とキタイオマニ(棟木)で基本フレームを構成する小屋組構造(以下、ケトゥンニ構造とする)は、チセの構造的特徴を代表するもので、チセのTipicalな構造形式であるとする考え方が定説化しているが、本研究によって、アイヌ民族にかかわる近世文書、絵画資料や近代以降の記録、論文を集成し、チセの小屋組構造を中心に検討すると、かつて、ケトゥンニ構造とは異なる多様な小屋組構造が存在したことを解明できた。さらに従来の定説(チセの純粋形態の証明=ケトゥンニ構造の採用)はなぜ形成されたかを解明するため、既往の研究、特に建築学研究者による研究成果を中心にその論点を再整理検討した結果、建築学研究者による研究は、昭和10年前後の数名の研究者によるものに限られ、それ以後、系統的な研究は行われていないこと、なかでも鷹部屋福平博士による研究業績が質量ともに群を抜き、結果的に氏の論考が定着し、再検討を受けないまま今日までの定説化に至った事を解明することが出来た。 また、ケトゥンニ構造の構造力学的評価については、従来、ケトゥンニ2組とキタイオマニで小屋組構造の主体を構成する合理的な構造と説明されてきたが、タルキの下端部分が直接側桁に接続し、タルキが直接的に荷重を負担する構造であることなどから、必ずしもケトゥンニとキタイオマニ主体の構造とは言えず、むしろ「垂木構造」に近い構造と考えられると言う結論を得た。さらに、住居遺構の上部構造復元研究として、竪穴住居から平地式住居に至る小屋組架構の変遷試案を提示した。また、擦文文化期を中心に、発掘住居遺構の実測図を集成し、竪穴住居の類型化を試みた。さらに竪穴住居から平地住居への変容過程について、「変容因子」を設定して考察を試み、壁と自由な開口部の確保が、その要因の大きな点であると推定した。
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