太陽光エネルギー利用を目指して、光・熱・電気エネルギー変換膜について研究を行った。研究は光・熱エネルギー変換膜、及び、熱・電気エネルギー変換膜の二つの要素に分けて、メゾスコピックスケールでの人為的膜構造制御による機能向上に重点を置きそれぞれ遂行した。 Ag分散MgO膜及びW-N/A1N積層膜をスパッタ法にて作製した。Ag膜の厚さを変化させると、金属超微粒子分散形態から連続膜へ変化し光吸収特性は微粒子表面プラズモン吸収から伝導性吸収を経てバルクの反射へ変化した。これを踏まえ傾斜分散膜を作製し、地上太陽光の約87%の吸収率を達成した。W-N膜では膜厚変化に対して光学特性を評価し、これを基に傾斜膜厚W-N/A1N積層膜を作製した。得られた膜は波長選択吸収特性を示し、地上太陽光吸収93%が達成された。 Fe-Si膜及びCとの積層膜、加えてCo-Sb膜をスパッタ法にて作製し、熱処理過程における構造変化と熱電特性評価を行った。FeSi_2組成の膜は最大の熱起電力及び電気抵抗率を示したが真空熱処理(853K×2h)中の電気抵抗率の変化から解き定数は約80時間と見積もられた。この不完全な熱処理に対して膜中には欠陥(変調)構造が新たに見出された。Cとの積層膜を形成し、電気抵抗率低減に成功した。しかし熱起電力も減少し結果として出力因子向上には結びつかなかった。 Co-Sb膜ではCoSb_3よりもSb富組成領域において真空熱処理中におけるSbの昇華に起因すると思われるnmスケールのボイドが高密度で導入できる事が分かった。このナノボイド構造は熱伝導率のフォノン寄与分の低減に結びつくと予想され性能指数向上が期待される。 光・熱エネルギー変換膜及び熱・電気エネルギー変換膜においてはメゾスコピック構造導入による機能向上の可能性が示された。今後はそれらの最適化が課題となる。
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