非常に微小な点欠陥集合体を研究する場合、透過電子顕微鏡法と陽電子寿命測定を併用することで、信頼性が高く新しい情報の得られる事が明らかになった。透過電子顕微鏡では、局所的な欠陥構造が解り、陽電子寿命測定により、電子顕微鏡では観察不可能な微小な原子空孔集合体を検出できた。この結果、銅やシリコン中の変位カスケードによって直接導入される3次元の原子空孔集合体は2原子空孔までで、それ以上の数が集合したものはつぶれて積層欠陥四面体や転位ループになっていると結論された。 極微小点欠陥集合体が、原子空孔型か格子間原子型かを透過電子顕微鏡像から判定するために、弱ビーム暗視野法による像の変化を調べた。1nm〜2nm程度の大きさの転位ループについて、ブラッグ条件からの励起誤差を系統的にずらし、像の大きさの変化を調べた。点欠陥集合体の型は、20Kでイオン照射して形成された転位ループの大きさが、格子間原子の移動によって成長するか縮小するかで判定した。両者の型の転位ループが存在していることは明らかになったが、励起誤差を関数とした像の大きさ変化に明確な型の違いは認められなかった。更に電子顕微鏡像のシミュレーションを行い、系統的な変化の違いがあるか確認する予定である。 陽電子寿命測定では、積層欠陥四面体での陽電子寿命は求められたが、原子空孔との分離は困難であった。転位ループの減少は捕えられるが、型による違いは陽電子消滅の実験からは明らかに出来なかった。透過電子顕微鏡を使ったステレオ解析で、変位カスケードによる原子空孔型と格子間原子型欠陥集合体の分布の違いを実験的に初めて明らかに出来た。
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