チタン酸鉛に代表されるペロブスカイト型強誘電体には、180°ドメインと90°ドメインという2種類のドメイン構造が存在する。外部電場により90°ドメインはスイッチングすることができる。このスイッチングは歪みと分極の大きな変化をともなうため、強誘電体材料の応用においてその挙動を明らかにすることは極めて重要である。本研究は、チタン酸鉛およびチタン酸鉛-ジルコン酸鉛固溶体(PZT)を基体とするペロブスカイト型強誘電体について、90°ドメインスイッチングの挙動を支配する結晶化学的因子を明らかにすることを目的として実施された。すなわち、チタン酸鉛にアルカリ土類金属を添加することで結晶格子の正方歪みを制御した試料を作製し、それらについて物性測定と結晶構造解析を行い物性と結晶構造の関係を系統的に調べた。その結果、ドメインスイッチングの容易さを決める抗電界は正方歪みの大きさで支配されるが、ドメインスイッチングの結果として乗じる自発分極は、バリウム、カルシウム、ストロンチウム固溶体で、特にストロンチウム固溶体が非常に大きいことを明らかにした。この原因を解明するため結晶構造解析を行ったところ、ストロンチウム固溶体でチタンイオンの理想位置からの変位が最も大きいことが明らかとなり、自発分極の測定結果を説明することができた。また、PZTにおける90°ドメインスイッチングの動的挙動を、マッハツエンダー型レーザ干渉計により、電界誘起歪みの周波数依存性を測定することで検討した。その結果、90°ドメインスイッチングには速度的限界があり、PZTの場合10kHz程度で圧電定数に緩和現象が生じることが明らかとなった。この手法により、ペロブスカイト型強誘電体の90°ドメインスイッチングの圧電効果への寄与を、結晶格子の圧電効果から分離し、定量的に解析することが可能となった。
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