研究概要 |
平成10年度に引続き半導体デバイスに一般に用いられるAl-1%Si-0.5%Cu合金の薄板材(10〜200μm)の引張試験片(平行部幅6mm,長さ10mm)を,溶解,鋳造,熱間・冷間圧延などにより作製し,大気中,温度200℃,初期応力σ=15〜50MPaの条件で,定荷重引張クリープ試験に供した。そしてクリープ変形・破壊挙動に及ぼす試験片厚さtおよび結晶粒径dの影響を調べた。 その結果,平成10年度よりも初期応力範囲を拡大したが,t/dが小さくなるほどクリープ速度が速くなるという傾向は同様に認められた。一方応力に対しては,概ねε_S∝σ^nのべき乗則(n=6〜10)が成立すると考えて考察していたが,厳密な変形理論および合金中に分散するSi相を考慮し,しきい応力σ_<th>を導入した式ε_S∝(σ-σ_<th>)^<n'>を用いて解析した結果,応力指数n'は5となり,変形は,平成10年度に提案した転位クリープによって生じることが確認された。また変形中の組織を透過電子顕微鏡により観察した結果,結晶粒内が転位網からなる亜結晶粒で構成されていることが分かり,このことからも転位クリープ機構が裏付けられた。クリープ速度の試料厚さおよび結晶粒径依存性については,結晶粒界で転位が堆積され,試料表面では逆に消滅することから,結晶粒界近傍で亜結晶粒が微細となり,表面近傍で粗大となるというモデルを提案した。このモデルに基づけば,t/dが小さくなるほど平均亜結晶粒径が大きくなり,クリープ速度が速くなることが無理なく説明できた。平成12年度は,このモデルを透過電子顕微鏡観察や結晶方位差顕微鏡(OIM)で実験的に検証する予定である。
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