研究概要 |
半導体素子配線材料と,バルク材料の間の変形・破壊機構の相違を明かにする基礎的研究の第一段階として,配線によく使用されるAl-1%Si-0.5%Cu合金の薄板材や箔材のクリープ変形挙動に及ぼす試料厚さtと結晶粒径dの影響を基礎的に調べ,単に薄いアルミニウム材料において,高温変形機構がバルク材と異なるかどうか,ストレスマイグレーションのような形態の破断が起こるかどうかについて明かにしようとした。その結果,定常クリープ速度は,t/dの-α乗に比例し,この指数αは負荷応力が30MPa以上ではほぼ1であり,応力の低下とともに小さくなったが,実験範囲内では常に正の値を示した。すなわち,クリープ速度は結晶粒径が大きくなるほど,また試料厚さが薄くなるほど,速くなった。見かけの応力指数は,7.9〜10.4の大きな値となったが,しきい応力を考慮することにより,真の応力指数は5と判定された。しきい応力の存在を指示する結果として,試料内にはSi相の分散が見られ,他方,応力指数が5であること(回復律速の転位クリープ)を裏付ける結果として,定常クリープ変形途中の試料をTEM観察した結果,亜結晶粒組織が見られた。破面観察の結果では,ストレスマイグレーションに生じるような粒界破壊は見られず,t≧200μmとバルクに近い試料ではディンプル形成型の破面,より薄いt≦100μmの試料では高延性材に見られるチゼルライン型の破面を呈した。これらの結果から,このような薄い材料では,粒界近傍で亜結晶粒が細かく,また表面近傍で粗いという亜結晶粒組織の不均一に基づいた新しいモデルにより,変形が進行すると推察された。このモデルは,これまで均一な組織を前提として論じられてきた高温変形の分野において,新しい基礎理論となるものと期待される。
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