究極のクリーンエネルギー源である核融合炉用炭素材料の可能性を検討するため、ECRプラズマCVD装置を用いて水素含有率の非常に低い硬質の炭素膜を作製し、作製された炭素膜の熱腐蝕特性に関する知見を得るためこれらの膜を真空下で加熱処理し、加熱前後の硬度、膜構造および組成の変化について検討した。 硬質炭素膜作製の基板にはSi基板を用い、-50〜-400Vの負バイアス電圧を高周波電源により印加した。バイアス電圧を変えて作成した炭素膜について、膜厚および硬度を比較すると、-100Vの膜が膜厚、硬度の両面で最も高いことがわかった。またそれぞれのバイアス電圧での膜のラマンスペクトルはダイアモンド状炭素の特徴を示した。これらの膜をRBSにより分析した結果、炭素含有量および水素含有量にはバイアス電圧による変化はほとんど見られなかった。 バイアス電圧が-100Vおよび-400Vで作製した炭素膜を真空下で10-5Torr、15℃/minで昇温加熱すると、硬度の高い-100Vの膜は加熱後ほとんど消失した。しかし硬度の比較的に低い-400Vで作製した膜は膜厚の減少はほとんどなく、炭素の面密度は10%減少したが、水素の面密度は93%減少し、水素含有率の非常に低い硬質の炭素膜が生成していることが分かった。加熱の際に放出されたガスのマススペクトルを測定すると、約500℃付近でメタンの放出が見られたが、加熱後も膜厚の減少のなかった-400Vの膜の方がメタンの放出量が多かった。さらに加熱後も炭素密度の減少が見られなかったことから、これらは成膜時において膜中に取り込まれたメタンであると考えられた。またバイアス電圧の違う膜を同時に加熱した場合、硬度の高い試料の方が膜の蒸発が多く見られたため、熱による腐蝕は硬質炭素膜の中でも比較的硬度の低い膜の方が腐蝕を受け難いことが分かった。
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