高強度球状黒鉛鋳鉄の水及び水蒸気環境下における「水脆化」現象を検討して、次の結果が得られた。 1. 引張試験結果 フェライト基地鋳鉄を除き、高強度球状黒鉛鋳鉄(パーライト基地、焼入れ・焼戻し及びオーステンパ球状黒鉛鋳鉄(ADI))は顕著な水脆化を起こす。特に靭性の高いオーステンパ球状黒鉛鋳鉄では、引張強さと伸びが著しい低下を示す。この水脆化は弾性変形領域では生じなく、塑性変形領域で生ずることから、塑性変形で生じた活性表面が水と反応して脆化を引き起こしていることが推測される。 また、水蒸気雰囲気中における引張特性に関して次の結果が得られた。 (1) 真空中において、ADIは大気中より高い引張強さと伸びを示す。 (2) 加熱排気を行った真空中(10^<-3>Pa)では、湿度0%雰囲気中より引張特性は向上する。 (3) 水蒸気雰囲気中(水蒸気分圧:10^3Pa前後)におけるADIの引張強さと伸びは、相対湿度の増大に伴い若干減少する。 2. 疲労試験結果 疲労試験における負荷応力は降伏点以下であるため、水脆化は生じない。しかしながら、長時間間の試験中に腐食が進行し鋳鉄表面にエッチピットを形成するため疲労強度は低下する。また、明瞭な疲労限度は示さない。 3. 破壊靭性試験結果 高強度球状黒鉛鋳鉄の破壊靭性は、顕著な水脆化のため著しい低下を引き起こす。しかし、乾燥するとこによって、水脆化は完全に抑制可能である。すなわち、変形中に水が付着しているか否かが、水脆化に重大な影響を及ぼす。 平成11年度は、水蒸気分圧を広範囲に変化させて各種球状黒鉛鋳鉄の水脆化に及ぼす影響を検討し、水蒸気分圧と水脆化との関係及び臨界水蒸気分圧が存在するか否か等を検討する予定である。
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