研究概要 |
本研究の目的は、溶融塩電解による希土類元素の電析と、同時に進行する基板金属との相互拡散を利用して、耐熱ステンレス鋼表面に希土類元素を添加し、耐高温環境性表面を創製することである。始めに、希土類元素の一つであるLaイオンについて、カソード還元挙動を調べた。これに基づき、LaをFe-Cr二元およびFe-Cr-Al三元合金基板上に電析し、合金表面層へLaの添加を試みた。その後、この処理を行なった合金の高温サイクル酸化挙動を調べた。得られた結果は次のようにまとめられる。 1.Laイオンのカソード還元挙動 1023Kの等モルNaCl-KCl溶融塩に4mol%La_2O_3と12〜24molNH_4Clを複合添加し、Ni板を試料電極としてカソード分極曲線の測定を行なった。この場合の溶融塩中へのLaイオンの添加は、添加塩のLa_2O_3とNH_4Clの化学反応によるLaCl_3の生成により行なった。-1.6V以下の電位域ではLa^<3+>イオンの還元反応が起こることがわかった。 2.Fe-CrおよびFe-Cr-Al合金へのLaの電析 1023Kの等モルNaCl-KClに4mol%La_2O_3と24mol%NH_4Clを添加した溶融塩中、Fe-17mass%Cr,Fe-23mass%CrおよびFe-10mass%Cr-2mass%Al合金を基板試料として、-1.6および-2.0Vの電位に0.06および0.18ks間定電位分極を行い、Laの電析を行なった。その結果、各合金とも、1mass%前後のLaが50nm以内の表面層中に含まれることがわかった。 3.Laを電析したFe-CrおよびFe-Cr-Al合金の高温サイクル酸化挙動 Fe-17および23mass%Cr合金については1273Kで、またFe-10mass%Cr-2mass%Cr合金については1373Kで36ks,10サイクルのサイクル酸化試験を行なった。この結果、Fe-17mass%Cr合金においてはLa電析の有無により酸化増量に差は認められなかったが、Fe-23mass%Cr合金においてはLa電析により酸化増量が大きく低下した。これより、高Cr合金のCr_2O_3皮膜形成合金では表面層へのLa添加が有効であることがわかった。一方、Fe-10mass%Cr-2mass%Cr合金ではむしろ電析処理により酸化増量が増大した。これは、電析処理過程で合金中のAl濃度が低下し、Al_2O_3皮膜の形成が妨げられたことに起因した。 以上のように、溶融塩を媒体とした電析法によりFe-Cr系合金に1mass%前後のLaの添加に成功し、これにより、Cr_2O_3皮膜形成合金においては著しく耐サイクル酸化性が向上することがわかった。
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