本研究では大変形領域にいたるまでの結晶の各変形段階での粒界近傍などにおける不均一変形の発達過程、ならびにそれに起因する“局所的な結晶回転"によって発生するmicroscale textureの解明と、その解析モデルを提案し、それらの予測・評価手法を開発することを目的とする。 本年度ではまず、拘束変形下での結晶体各部の方位回転挙動を追跡するための解析手法と計算アルゴリズムを開発した。すなわち多結晶塑性の基本モデルとしてTaylor-Bishop-Hill流の結晶塑性論を採用する。ただし、この場合各結晶粒に指定されるストレッチング成分Dij(ひずみ速度成分)は全て固定されるのでなく、そのいくつかの成分は多結晶全体体としてのひずみ速度成分に“大体等しくなっている"という、いわゆるファジィ数と解釈する。そして、変形に曖昧性を導入したことによって生ずる粒界近傍でのひずみ速度のmisfit(これをrelaxationテンソルと呼ぶ)解消のための局所的不均一変形の発現を考える。その結果として、relaxationテンソル成分を考慮した多結晶塑性に関するファジィ・Taylorモデルというべきものを提案し、これを一つの数理計画法の問題として定式化することができた。 定式化した計算アルゴリズムを用いて、粒界での局所的不均質変形と多結晶全体としての変形集合組織を定量的に予測するプログラムの開発に成功した。さらに、この予測プログラムを用いて、IF鋼の冷延集合組織の発達を予測したところ、実測データとよく対応したものが得られ、提案した予測手法の有効性を確認した。さらに、relaxationテンソルの概念を用いて、粒界近傍での局所的方位回転を求める理論と計算手法も同時に得ることができたが、これらの詳細と実際との対応に関する検討は次年度に行なう。
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