本研究の目的は、地球環境への負荷が小さくかつ低コストで処理できるオーステナイト系ステンレス鋼の新しいガス窒化法を開発することにある。そこでSUS304、SUS316およびSUS310の三種類のオーステナイト系ステンレス鋼に大気中予加熱を施した後、773〜873Kの温度範囲で保持時間を変えてガス窒化処理を行い、窒化挙動を反応速度論的に検討し、以下の結論を得た。 (1) 窒化処理の初期から表面全体に窒化層が形成されるわけではなく、まず局部的な窒化(核生成)が起こり、それらが成長・合体することによって表面全体が窒化層で覆われ、その後の深さ方向への成長によって均一な厚さの窒化層が形成される。 (2) 窒化層の成長は窒化層中の窒素の拡散によって律速される。大気中予加熱は成長過程に影響を及ぼさない。 (3) 大気中予加熱は窒化反応の核生成に影響を及ぼす。これは、大気中予加熱による表面皮膜の組成の変化が、NH_3ガスの解離や皮膜中における窒素の拡散に影響を及ぼすためと考えられる。 (4) 窒化温度が高くなるほど窒化層の硬さは低下する。特にSUS304とSUS316ではこの傾向が著しい。これにはオーステナイト中に析出する窒化物の種類、量および分散状態、窒化物の粗大化、素地の格子ひずみの緩和等が関係していると考えられる。
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