本研究の目的は、地球環境への負荷が小さくかつ低コストで処理できるオーステナイト系ステンレス鋼の新しいガス窒化法を開発することにある。そこで温度および時間を種々に変えて大気中予加熱を施したあと、温度および時間を種々に変えてガス窒化処理を行った。大気中予加熱後の表面の酸化皮膜と窒化後の窒化層の組成を分析するとともに、窒化層の硬さおよび深さを測定した。そしてそれらの結果を関連づけて反応速度論的に解析し、新しいガス窒化技術を確立した。主な結果を以下に示す。 (1)大気中予加熱を施すことによって窒化反応の核生成が促進される。特に、表面が主としてFe系の酸化物からなり、皮膜内部では緻密なCr_2O_3の濃度が低く逆に格子欠陥濃度の高いFeOの濃度が高くなるような適当な温度および時間で大気中予加熱を施してガス窒化を行うと、従来行われてきた種々の化学的前処理を施さなくても、実用的に十分な硬さを持つ均一な深さの窒化層が得られる。 (2)窒化層の成長は、窒化層を形成しているオーステナイト中の窒素の拡散によって律速される。したがって窒化層の深さは、窒化処理の温度と時間で制御できる。 (3)窒化層の硬さは、窒化温度によって制御できる。これには窒化物の種類、量、分散状態と素地の格子ひずみが関係している。
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