まずSUS304、SUS316およびSUS310の3種類のオーステナイト系ステンレス鋼に種々の温度および保持時間で大気中予加熱を施し、表面被膜の組成の変化をX線光電子分光分析で定量的に調べた。次に773K〜873Kの温度で保持時間を変えてガス窒化処理を施し、窒化層の組織、硬さおよび深さの変化を詳細に調べ、反応速度論的解析を行った。その結果、窒化処理の初期から表面全体に窒化層が形成されるわけではなく、まず局部的な窒化(核生成)が起こり、それらが成長・合体することによって表面全体が窒化層で覆われ、その後の深さ方向への成長によって均一な厚さの窒化層が形成されること、窒化層の成長は窒化層を形成しているオーステナイト中の窒素の拡散によって律速されることが明らかになった。また、大気中予加熱によって窒化反応の核生成が促進され、特に表面が主としてFe系の酸化物からなり、皮膜内部では緻密なCr_2O_3の濃度が低く逆に格子欠陥濃度の高いFeOの濃度が高くなるような適当な温度および時間で大気中予加熱を施してガス窒化を行うと、従来のような種々の科学的前処理を施さなくても、実用的に十分な硬さを持つ均一な深さの窒化層が得られた。さらに、窒化層の成長は、窒化層を形成しているオーステナイト中の窒素の拡散によって律速され、大気中予加熱は成長過程に影響を及ぼさないため、窒化層の深さは窒化処理の温度と保持時間のみで制御できること、窒化層の硬さは窒化温度に依存し、これには窒化物の種類、量、分散状態と素地の格子ひずみが関係していることが明らかになった。 以上のように、本研究によって、従来のような化学的前処理を必要としない、地球環境に優しいクリーンなガス窒化処理技術を確立できた。
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