研究概要 |
マグネシウムは実用合金で最も軽量でかつ人体に無害であり,種々の分野で環境負荷の少ない素材としての活用が期待されるが,活性な金属であり耐食性向上のための表面処理が重要な役割を持つ。本年度は,耐食性皮膜を得るための基礎研究として,主としてアルカリ性電解液中でのアノード酸化挙動と生成する皮膜構造を,素地純度の効果,および電解液中のAl^<3+>イオン共存の効果と共に検討した。その結果,以下に示す新規な事実を明らかにできた。これらの研究成果は国内学会および国際会議で発表した。 1) アルカリ溶液中で定電圧アノード酸化したときの電圧と電流値との関係を調べた結果,純度や合金組成が変わっても,いずれも5V付近で電流が極大となり,その後低い電流領域を経た後,微小なスパークを伴って絶縁破壊が起こり電流が急上昇する。その臨界電圧は試料純度に大きく依存し,99.6%で50V,AZ31で90V,AZ91および99.95%で100Vであった。これは,3〜9%含まれるAlが生成する酸化皮膜の安全性を高め,絶縁破壊を妨げるためである。素地中のAlは電流増加を抑える効果を持つ。5Vで電流が増大するのは皮膜の性質がこの電圧付近で変わるためと推定される。この5Vでの特異な挙動は中性や酸性溶液中では観察されない。 2) 電解液がフッ化物系の場合は,AZ91が70Vである以外試料の臨界電圧はほぼ同一の60Vとなった。これは皮膜の成分としてMgF_2が生成し,それが皮膜の性質を支配して素地純度の効果を相対的に低下させるためである。AlF_3の溶解度は高いため溶液中に溶出し,Alの皮膜保護性の効果はNaOH溶液の場合に比較して低下する。 3) 素地あるいは電解液中にAlが存在すると,優先的に皮膜に取り込まれスピネル(MgAl_2O_4)を形成する。これがAlの存在により緻密で保護性の高い皮膜が生成する主因となる。
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