塑性加工において境界潤滑状態での加工を安定的に成立させる要件として微視的押込み加工に注目し、ピラミッド状ダイアモンド圧子によるヴィッカース押込み試験の圧痕の、各押込み面におけるナノスコピックな形状の評価を行った。その結果通常の押込み過程では素材のもつ表面粗さを十分に修正するだけの緊密な境界接触が得られず、ナノスコピックな次元での自由変形(表面荒れ)が生じることを認めた。 この結果とこれまでの各種の研究を総括した結果、微視的なすべりと鈍角楔での押込みを組み合わせた加工が境界接触面の形成に有望であると判断した。頂角150°のくさび形の超微細粒超硬合金で工具を作成し、表面粗さを20nmRz 1nmRaという現在の最高レベルに仕上た。これを用いて試作したトライボ塑性変形加工機により半硬質無酸素銅に押込み境界接触面の溝を作成した。さらに負荷したまま稜線方向にすべりを与えることにより残存する表面粗さ谷部の消去を試みた。 その結果、境界接触率は80%程度であるが、境界接触面の表面粗さは工具と同程度の1nmRaの極めて高度に平滑化された溝面が得られた。これにより塑性加工により工具面と同等のナノメーターオーダーの粗さをもった面を局所的に、また斜面上に形成させることができた。今回のくさび形工具を使用した場合、付加的すべりの効果はそれほど顕著でないという結果を得たが、それが一般的なものなのか、今回の実験条件範囲(すべり距離0.5mmまで)のものなのかは引き続き検討する予定である。
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