塑性変形の転位論的な意味での微細な性格を加工に活かすには、分子膜オーダーに近い表面粗さの制御を行いながら剛体的拘束を作用させ、必要な範囲での材料の塑性変形を発生させる技術が必要である。その障害となるものには第1には摺動による表面損傷、第2には過剰な潤滑剤の存在、第3には環境から持ち込まれる異物粒子などによる損傷、第4には材料の不均一性などが考えられる。本研究では主として上記1および2の問題を克服して、塑性加工界面でのナノメートルレベルでの表面形成機構をトライボロジー条件との関係で明らかにする。さらに特定の形状に対してのナノスケールでのトライボ変形加工が可能であることを例証することを目的とした。 塑性-流体潤滑的考察から加工法として150°の頂角を持つ超微細粒超硬合金工具による楔形工具の無酸素銅試験片への提訴クドの押込みを稜線方向への微小距離(0.5mm)摺動という方法を採用した。 その結果、境界潤滑面の形成には2つの側面があり、第1次的な数ミクロンレベルの幅の非接触域を含む接触率の上昇過程と、第2次的な境界接触面とみなされる面でのナノスコピックな面形成と区別する必要がある。試験片を研磨紙仕上げ(150nmRa程度)の比較的粗い状態から出発した関係で、前者においては原子間力顕微鏡のレベルでも表面損傷として検知される部分ではなく、500nm×500nmの領域で0.5nmRa程度の工具面と同程度の表面粗さという転写を実現することができた。これは局部的ではあるが、試験片の表面粗さを1/100程度まで一挙に塑性加工で低下させることが可能であることを示し、塑性加工の微細転写能力が充分ナノスコピックな次元にあることを例証した。なおその際の潤滑剤および摺動長さの影響については引き続き検討を行う。
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