| 研究概要 |
スラグの構造と性質に関する研究は素材工学上最も重要な分野の1つである。しかしながら、高温液体状態に由来する実験の困難さから、構造と物性、構造と塩基度との間には、不明な問題が数多く残されている。本申請研究も、スラグの構造と化学的特性との関係を解明するための1つの試みである。スラグ中金属酸化物の濃度が変化すると、構造が変化して、X線発光スペクトルが変化する。前年度、申請者らは、分子軌道計算に金属酸化物の濃度の概念を取り入れる方法を考案し、SiO_2-CaO 2成分系スラグのSi K_β X線発光スペクトルをシミュレーションした。その結果、CaO濃度に伴う構造変化を推定し、塩基度を解釈できた。本年度、Siイオンの結合相手である酸素イオンの検討を行い、O K_α X線発光スペクトルをシミュレーションした。
まず,Ca^<2+>が配位するディスクリ-トアニオンSiO_4Ca^<4->、Si_2O_7Ca^<4->、Si_3O_9Ca_<4->、Si_3O_<10>Ca^<6->、Si_4O_<12>Ca^<6->、Si_6O_<15>Ca^<5->、Si_8O_<20>Ca^<7->およびSi_9O_<21>Ca^<5->のそれぞれについて、各分子軌道のO 2p成分の部分状態密度(PDOS)、Q_<2p>を求めた。ついでこのQ_<2p>と分子動力学研究で得られた所定のCaO濃度における各ディスクリ-トアニオンの存在比率、m_iとの積Q_<2p>m_iにガウス関数を適用して総和をとり,CaO濃度を取り入れたO 2p PDOS曲線を計算した。その結果、CaO濃度を取り入れたO 2p PDOSの計算結果は、62.4mol%SiO_2-37.6mol%CaOおよび43.3mol%SiO_2-56.7mol%CaOスラグのO K_α X線発光スペクトルと一致することがわかった。さらに、各ピークのディスクリ-トアニオンの帰属を調べることにより、塩基度の解釈に結びつけることにも成功した。
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