熱交換器は多種多様であり、それぞれの厳密な物理モデルは非常に複雑になる。そのようなモデルをそのまま用いることは実用上得策とは思われない。そこで平成10年度は、熱交換器の構造に関わらず、その機能(高温側流体と低温側流体との間で所定の熱交換を行う)だけに着目した動特性近似モデルの作成を行った。ただし、近似モデルはニューラルネットワークのようなブラックボックスモデルではなく、その機能を考慮した半物理モデルを対象にする。具体的には以下のような手順で動特性近似モデルを検討した。 (1) 熱交換器ダイナミックシミュレータ プロセスダイナミックシミュレータ(HYSIS)を利用して、代表的なShell&tube型の熱交換器で管壁へのスケールの付着による伝熱抵抗を考慮したシミュレーションを実行できる環境を整備した。 (2) 動特性近似モデル 動特性近似モデルとしては、高温側流体と低温側流体をそれぞれ槽列モデル(以下では各槽を要素と呼ぶ)で近似し、対応する高温側要素と低温側要素の間で熱交換が行われるモデルを対象にした。このモデルでの調整パラメータは要素数Nであるが、Nを調整することによって、熱交換器への入力条件(運転条件)を変動させたときの(1)でのシミュレーション結果をある程度近似するモデルを得ることはできた。 (3) 状態推定機構と今後の課題 (2)の近似モデルで実時間レベルの動的な挙動を近似することはできたが、劣化現象は年単位の長期間にわたる現象である。また、利用可能なデータは日毎に平均化されたデータであることが多い。そこで、近似モデルを日毎の動的な挙動を表現するモデルへ拡張して状態推定を行う必要がある。
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