タンパク質溶液の分離・濃縮で重要な限外濾過のファウリング機構を解明するため、本研究では、タンパク質溶液の膜面傾斜型限外濾過における膜面堆積層の濃度分布を実測し、以下の知見を得た。 1 タンパク質溶液の代表例としてBSA溶液について、試作濾過器を用いて膜面傾斜型限外濾過を行った。ある一定量の濾液を得た時点で濾過を中止し、生成したBSA堆積層内の種々の位置の試料をパスツールピペットで採取した。紫外可視分光光度計によりBSA濃度を測定し、堆積層の濃度分布を求めた。その結果、従来の濾過ケークと同様に層内は濃度分布をもち、膜面近傍に近づくにつれ濃度が急激に増大することを明らかにした。 2 膜面傾斜型濾過を行い、厚い堆積層を形成させた後、膜面傾斜角度を変化させて引き続き下向流濾過を行うと、初めから下向流濾過を行った場合とまったく同じ濾過挙動を示すことを明らかにした。この知見に基づき、膜面傾斜型濾過に引き続き下向流濾過を行い、下向流濾過におけるBSA堆積層の濃度分布を求めた。下向流濾過においても、膜面近傍で高い濃度を示すことが明らかとなった。濾過された溶液中に含まれるBSAのほとんどすべてが堆積層の構成分子となり、膜面傾斜型、下向流濾過の両期間を通じて再び原液側に戻らないこともわかった。 以上のように、本研究では限外濾過における堆積タンパク質層の濃度分布を測定する手法を開発し、限外濾過過程で形成される膜面堆積層の特性を明らかにした。さらに種々の試料、濾過条件で実験を行うとともに、導電率測定に基づく、より精度が高い濃度分布の結果を得て、ファウリング機構を究明するための基礎的知見を得る予定である。
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