分離膜によって光学異性体の分離を行うことは興味ある研究課題であると考えられる。本研究者は不斉認識部位として機能することが期待される新たな候補物質としてグルタミン酸誘導体(E)ならびにフェニルアラニン(F)より構成される8種類のトリペプチド誘導体に着目した。これらトリペプチド誘導体群が自己組織化し、自発的に不斉認識部位を形成することは考え難い。そこで、これら誘導体に簡易分子インプリント法を適用することにより、L-アミノ酸ならびにその誘導体をそれぞれ対応するD-体より識別する不斉認識部位へ変換することを試みた。 調製された鋳型膜にはL-体がD-に比較して選択的に鋳型膜へ取り込まれた。この結果はマクロモデルを適用したシミュレーションによっても確認された。また、吸着等温線より、鋳型膜内に形成された不斉認識部位がL-体のみを基質特異的に認識し、D-体は取り込まない厳密な分子認識部位を形成していることが明らかになった。親和定数からトリペプチド誘導体側鎖のアミノ末端に構成アミノ酸残基としてFよりもEが存在する方がAc-L-Trpに対して高い親和性を示すことが、さらには、不斉認識部位を形成するトリペプチド誘導体を構成するアミノ酸残基中にEが多く存在することにより不斉認識能が高くなることが明らかになった。また、鋳型膜内の不斉認識濃度を増大させることにより、その不斉認識能を低下させることなく膜透過流束を向上させることが可能なことをも明らかにした。
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