本研究では、申請者が開発した遺伝子導入用のカチオニックリピッドベシクルからなる人工遺伝子キャリヤーに対し遺伝子導入効率の向上のために、(1)導入するDNAの保護のためのDNA側のDNA結合性タンパク質による処理、(2)細胞指向性をもたせるためのリピッドベシクルへのリガンドの導入、および(3)ゲノムへの目的遺伝子の組込み機能を付与するためのレトロウイルスインデグラーゼの導入について検討した。まず、導入したDNAの細胞内での分解を抑制し、核への移行を促進する機能を付与するために、安全性が確認されており、DNAと複合体を形成することが知られているプロタミンを遺伝子導入の際に加えることを検討したところ、用いた全ての細胞株およびプラスミドで、プロタミンの添加による遺伝子導入効率および発現量の向上が認められ、最大20倍以上の導入効率および発現量の増大が達成できた。つぎに、組織や細胞への指向性を増すために、細胞表面レセプターと結合するリガンドのリピッドベシクルへの導入を検討し、ターゲットとする細胞で3〜4倍の遺伝子導入効率の増大を達成できた。さらに、本研究の遺伝子キャリヤーリピッドベシクルに対象細胞のゲノムへの組込能を付与するため、レトロウイルスの宿主ゲノム組込みにおいて中心的な役割を担っているインテグラーゼの発現ベクターを作製し、インテグラーゼの認識配列であるLTR領域を部分的に組み込んだ目的遺伝子とともにCHO細胞に遺伝子導入したところ、ゲノムへの組込み効率を十数倍向上させることができた。
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