本研究では、微生物の代謝経路網解析を行い、プロセスの入出力データから、代謝流束分布をオンラインで推定する手法を開発し、あわせて、代謝反応を考慮しながら培養制御を行う、全く新しいバイオリアクターシステムを開発することを目的としている。また、水素細菌を利用した培養システムに適用し、効率的なPHBの合成へ応用しようとしている。 我々は、すでに、微生物の代謝ネットワーク情報を、信号伝達線図に変換し、プロセスの入出力と、代謝ネットワーク情報とを結びつけることで、培養フェーズを分けることができることを、遺伝子組換え酵母の培養実験で示しており、これをオンラインで実行するための基礎的手法も開発している。また、水素細菌によるPHB合成を例にとって、プロセスの入出力データから代謝流束分布を推定する手法も開発している。 本研究ではさらに、遺伝子組換え大腸菌によるPHB合成を代謝調節制御の観点から検討するために、MITのA.J.Sinskey教授からPHB合成遺伝子を分けていただき、プラスミドを構築し、大腸菌に組み込んで形質転換した。この遺伝子組換え大腸菌を培養した結果、水素細菌の場合と異なり、PHB合成に必要なNADPHがペントースリン酸経路生成されるため、このNADPHをどうやって過剰生成させるかが重要であることがわかった。そこで、数理的手法(線形計画法)を利用して、まずPHB合成速度を最大にする最適な代謝経路分布を求めた。次に、それを実現させるために、さらに解糖系のpgi欠損変異株や、アセチルCoAから酢酸合成にいたる経路の酵素を発現させるack遺伝子を欠損させた変異株を作成して、その培養特性を検討した。また、グルコースの取り込みに関して、いわゆるptsを制御することも検討した。また、炭素源をグルコースではなく、グルコン酸に変えることによって、代謝経路を変化させ、NADPHの生成を制御することも行った。現在、さらに代謝解析を行い、培養制御の観点から検討中である。
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