信頼性の高い殺菌プロセスの評価法と加熱加工食品の賞味期限設定の理論的基礎の確立が要求されている。非定温加熱過程による微生物の耐熱性の変動を考慮した殺菌理論の構築を図ることを目的とし、前年度に引き続き、予備保温温度の変化による大腸菌の死滅過程について検討し、今年度においては予備保温過程の細胞耐熱性化反応を解析した。 37℃で培養した大腸菌洗浄細胞をリン酸緩衝液中で0℃から各予備保温温度へ10培希釈法によって昇温後、各時間試料をとり、それぞれ55℃に100倍希釈法によって加熱後、その生存曲線の死滅速度(D値)を耐熱性の指標とした。予備保温中の耐熱性化の過程をD値上昇の初速度から計算したところ、10℃では極めて緩慢に、15℃以上では温度に応じて耐熱性化の速度が大となった。最終到達定常のD値として得られる平衡の耐熱性値は15℃以上で60秒と一定となったが、10℃では低い値で一定となった。このことは、比較的急速な昇温過程を伴う加熱処理では、加熱前の温度がその後の熱死滅の程度に大きく影響することを確証づけるものであり、またこの現象の要因として、細胞膜脂質の相転移、相分離の関与の仮説と矛盾しないものである。 得られた耐熱性化反応の速度定数の予備保温温度依存性を見るため、アレニウスプロットをとったところ、15℃以上で直線となり、その勾配から得られた活性化エネルギーは111.7kJ/moleとなった。おそらく細胞膜脂質の物性変化に依存した細胞膜内の反応が耐熱性化に寄与しているものと推察した。
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