加熱加工食品の微生物学的安全性の確立のために、より信頼性の高い殺菌条件の設定方法を開発する必要がある。本研究においては、従来から当研究室で問題視してきた非定温過程における微生物の耐熱性の上昇反応の解析を行い、それをもとに熱死滅のデータベース作成に反映させ、さらに殺菌予測理論の構築とその適用へ展開することを企図した。 平成10年度においては、37℃で培養した大腸菌を各予備保温温度で処理後、55℃に希釈法によって加熱し、その温度でのD値を指標に予備保温温度の耐熱性に及ぼす影響を検討した。加熱時の希釈率が10倍のときには、22℃前後以下で次第に耐熱性が連続的に低下したのに対し、100倍希釈の場合、この温度で不連続となり、急激な低下を示した。50倍希釈ではこれらの中間的な挙動を示した。さらに、37℃以上の予備保温では全く異なった様相を示し、各予備保温温度に依存した熱耐性値で一定にならずに耐性が上昇しつづけた。一方、培養温度を37℃の代わりに15℃で行うと、予備保温が比較的短時間の間は予備保温温度によらずほぼ同じ耐熱性を示したが、長期の保温では耐熱性が上昇する傾向にあった。 平成11年度においては、予備保温中の耐熱性化の過程を解析した。D値上昇の初速度を計算したところ、10℃では極めて緩慢に、15℃以上では温度に応じて耐熱性化の速度が大となることがわかった。最終到達定常のD値として得られる平衡の耐熱性値は15℃以上で60秒と一定となったが、10℃では低い値で一定となった。このことは、比較的急速な昇温過程を伴う加熱処理では、加熱前の温度がその後の熱死滅の程度に大きく影響することを確証づけるものである。得られた耐熱性化反応の速度定数の予備保温温度依存性を見るため、アレニウスプロットをとったところ、15℃以上で直線となり、その勾配から得られた活性化エネルギーは111.7kJ/moleとなった。 関連研究として、熱死滅データベース作成作業を進め、本研究で得られた成果をこれに反応させた。
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