研究概要 |
本研究における本年度の成果として,特定の溶質が液滴からリング状に分配する現象を利用して,全血中のヘモグロビンの目視テスト法の開発に成功した.具体的な操作の概要は次の通りである.全血2μlに,3.5×10-6mol dm-3 ローダミンB水溶液58μlを加える.この溶液50μlをODSプレート上へ滴下し,5分間静置した後,暗所でUVランプ照射下,黒色を呈する液滴内を肉眼で観察する.底部に蛍光リングが透視された場合,貧血試料と判定する.このテスト法で,成人女性の正常値である120gL-1と貧血の場合の100gL-1とを明瞭に識別できる.これは,ODSプレートへ分配した蛍光色素ローダミンBに対して,液滴中のヘモグロビンがその濃度に応じて,UV光による励起ならびに蛍光の透過を遮蔽する結果である.水溶性タンパク質であるヘモグロビンは固相へ分配されない.ここで肉眼の識別感度を確保するためには,本研究で見出された色素がリング状の濃度勾配をもって液滴円周部(固相表面―液滴―空気から成る三相界面)に分配する現象が不可欠である.これを有効に利用して,正常/貧血のヘモグロビン濃度の小差を増幅して視認性を高め,迅速・簡便な目視テスト法が開発された.本法は,少量(2μl)の採血で,装置や特殊な器具を必要とせず,貧血診断のためのスクリーニング法としての実用性を有している.
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