研究概要 |
化学現象の分子レベルでの理解の進展と共に,界面や表面で進行する化学反応についても,その詳しいメカニズムを明らかにすることが必要となってきた。本申請課題では液-液界面の新しい研究手法として,全反射励起界面サーマルレンズ法を提案し,これをイオン会合型の溶媒抽出反応へと応用し,微視的なレベルでの分子挙動を明らかにした。 1.装置の試作とモデル分子による性能評価 初年度(平成10年度)は,測定装置を試作し,界面での挙動が容易に推定できる両親媒性のモデル分子(ピレン酪酸とピレンデカン酸)について測定を行った。モデル分子の溶解過程がリアルタイム(時間分解能0.1秒程度)で測定でき,検出感度も十分高く,単分子膜展開の1/10に相当する量が測定できた。信号の経時変化は界面からの一次元拡散モデルにより説明することができた。本年度には温度変化も測定できるよう改良を加えた。 2.イオン会合溶媒抽出反応への適用 分析化学において基本的なイオン会合溶媒抽出反応である鉄(II)とフェナンスロリン類との界面反応につき研究した。水相(鉄イオンを含む)と有機相(キレート試薬を含む)の界面を形成し,錯イオン生成に相当するサーマルレンズ信号を測定,解析した。速度論解析から界面でのキレート生成反応がk=2.3x106mol-1cm4s-1と初めて直接的に求まった。また,界面へのキレート試薬の吸着,配向過程も直接観測でき,その抽出能力との関係につき考察した。 3.今後の研究の展開 これまでの知見をもとに,分子会合反応や分子認識反応などより有用な界面反応につき研究を進める。これまでの成果は,論文投稿とは別に,近く成果報告書としてまとめ公表する予定である。
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