研究概要 |
ジチゾン代替抽出剤の開発を目的として、分子中にSH基及びNO_2基を導入した新規ヒドラゾン〔2-メルカプトベンズアルデヒド=5-ニトロ-2-ピリジルヒドラゾン(MBNPH)と略記〕を分子設計し、その合成に成功した。MBNPHは水に難溶であったが、1,4-ジオキサン、ベンゼンなどの有機溶媒に可溶であった。MBNPHの酸解離定数の測定は吸光光度法によって行った。20%〜50%ジオキサン-水系溶液中で見かけの酸解離定数を求め、ジオキサン濃度を0に外挿して水中の酸解離定数(K_2)を求めたところ、pK_<a1>=7.26(SH基)及びpK_<a2>=10.80(NH基)が得られた。MBNPHはCd(II)、Co(II)、Mn(II)、Ni(II)、Pb(II)、Zn(II)と反応して錯体を形成するが、特にCu(II)に対して鋭敏で、483nmに吸収極大(λ_<max>)を有し、モル吸光係数(ε)はε=34,000M^<-1>cm^<-1>であった。この抽出系にピリジンを共存させると、協同効果によって三元錯体を生成し、そのεは著しく増大した。〔λ_<max>=474nm、ε=54,000M^<-1>cm^<-1>〕。三元錯体は水相のpH6〜8の間でベンゼンに定量的に抽出され、抽出種は少なくとも60分の吸光度の測定では変化が認められなかった。連続変化法を適用し、Cu(II):MBNPHの結合比を求めたところ1:2であった。更に、ピリジンの付加数を吸光光度法によって求めたところ、ピリジンがCu(II)-MBNPH錯体のアキシャル位に2分子付加した1:2:2〔Cu(II):MBNPH:Py〕の付加錯体を形成した六配位八面体構造を形成していると推定した。ピリジン共存下での本抽出系の諸平衡定数、MBNPHの分配定数(K_<Dr>)、錯体の分配定数(K_<Dc>)及び生成定数(β_1、β_2)を求めたところ、それぞれlogK_<Dr>=4.39、K_<Dc>=2.10、logβ_1=5.79及びlogβ_2=17.6が得られた。これらの値を用いて計算して得られた抽出定数(K_<ex>)と別途に抽出実験を行いlog-logプロットから求めた値(logK_<ex>=2.19)と良く一致した。
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