本研究では、光合成反応中心で「光→電子」エネルギー変換を行う特殊なクロロフィルの正体を明らかにし、物理化学的特性を詳細に調べることで、光合成反応中心の分子機構を明らかにすること、また、好酸性バクテリアA.rubrumがMgではなくZnを中心金属として選択した理由を、クロロフィルの物理化学から明らかにすることを目的として研究を進めている。 まず、「系I型反応中心」の化学進化という観点から、ヘリオバクテリアで機能するバクテリオクロロフィルg′(バクテリオクロロフィルgのプライム型)が、水素転位によって高等植物の光化学系Iで機能するクロロフィルa′(クロロフィル′aのプライム型)に変換する条件を模索した。その結果、「バクテリオクロロフィルg′→クロロフィルa′」なる異性化反応が、弱酸性下で容易に進行することをつきとめた。このことはへリオバクテリアの光化学系が高等植物の系I型反応中心に化学進化した傍証となる。 また、A.rubrumがMgではなくZnを選択した要因を明らかにするため、Zn-バクテリオクロロフィルがMg-バクテリオクロロフィルに比べて、強酸に対して極めて高い耐性を示すことを、分光学的手法を用いて定量的に調べた。その結果、A.rubrumが生息するpH3では、Mgがすぐ脱離してしまうのに対し(半減期=数分)、Znは極めて安定(半減期=数年)であることが分かった。さらに、A.rubrumの反応中心の色素分析をしたところ、4個のZn-バクテリオクロロフィルと2個のバクテリオフェオフィチンで構成されていることを明らかにした。したがって、A.rubrumの反応中心は、紅色細菌の反応中心のMg-バクテリオクロロフィルがすべてZn-バクテリオクロロフィルに置き換わっていることになる。このことは、光合成の初期過程が必ずしもMg型のクロロフィルでなくてもいいことを意味している。
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