十数年前に紅色細菌の「反応中心」の結晶解析がなされ、また最近になって紅色細菌の外側のアンテナ(LH2と呼ばれている)の結晶解析が行われた。しかし、他の光合成系のメカニズムは未だに不明な点が多い。特に、系I型反応中心では、光電荷分離を起こす特殊なクロロフィルの正体が謎のベールに包まれたままである。また、「反応中心」に直接光エネルギーを渡すアンテナLH1もリング状らしく、その穴に「反応中心」が埋め込まれているとみなされている。しかし、これではLH1という壁に遮られて、キノンが「反応中心」とシトクロムの間を行き来できず、光合成できなくなってしまう。 そこで本研究では、(1)「反応中心で機能する微少量の特殊なクロロフィルの同定とその役割」と (2)「LH1と反応中心の配置」について明らかにすることを目的として研究を進めた。反応中心にのみ存在する特殊なクロロフィルが初発電荷分離を行っていることが立証できれば、また、「アンテナ」と「反応中心」との配置が明らかにできれば、人工光合成系を構築する際に非常に役に立つと期待される。 光合成細菌の色素分析を行ったところ、系I型反応中心を持つヘリオバクテリアにバクテリオクロロフィルg'が存在し、系II型反応中心をもつ紅色細菌にはプライム型色素が含まれていないことが明らかになった。また、紅色細菌の分析の際、アンテナクロロフィルと反応中心にのみ2個存在するフェオフィチンとの比が、菌体により異なる結果を得た。このことは、LH1(32分子のバクテリオクロロフィル)が「反応中心」(4分子のバクテリオクロロフィル+2分子のバクテリオフェオフィチン)を取り囲んでいるというモデル(BCh1/BPhe=(32+4)/2=18=const)では説明できない。つまり、反応中心はリング状のLH1の外に存在するかあるいはLH1がリング状ではないことを示唆する。
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