研究概要 |
電極反応の生成物を分光科学的にin situに検出できる分光電気化学法は、電極反応の後続反応を研究するのに非常に有効な測定法である。従来の方法は、原理的に強制対流を伴わない系に限られていた。本研究は強制対流を含む分光電気化学測定系を目指すものである.強制対流を含む系では拡散層の厚さを一定に保てる,および電極上での吸着性についての情報が得られるという非常に大きな利点がある.さらに電位一定で波長を走引することもでき、分光電気化学法の有用性が大きく広がることが期待される。 電解のための金電極の下流に石英窓をもつチャンネルフローセルを作製した.この石英窓が光路上にくるように、ランプ・モノクロメーター,フォトマルを組み合わせた分光化学測定系を配置し、全測定系を組み立てた。まず後続反応がない系で,この新しい測定法の基本データを集めた。強制対流のため電極反応生成物の光路上での蓄積のない本方法においても分光化学的検出が十分な感度をもってなされることが確認された。検出にも電極を用いるような系では捕捉率(検出極電流/作用極電流)はセルの幾何学的パラメーターで決まってしまい、流速には依存しないが,本方法での捕捉率(電解生成物の吸光度/作用極電流)は流速に依存し、流速が大きくなるにしたがって小さくなった。 次に、この方法によりp-ベンゾキノンのスルホン化の速度定数を求めた。この測定では亜硫酸塩溶液中でヒドロキノンをp-ベンゾキノンに電解酸化し,p-ベンゾキノンに起因する吸光度の減衰速度を調べることによってスルホン化の速度が求められた。応用例としてこの反応系を選んだのは,亜硫酸塩がヒドロキノンの電極反応を不可逆にするため、固定電極においては解析が不可能とされていたからである。本方法では拡散層の厚さを固定できるので、このような不可逆な電極過程のもとでも解析が可能である。捕捉率の濃度依存性をデジタルシミュレーション法によって解析し、pH9.0の値として4.7x107 M-1s-1が求められた。 本測定系においてまだ解決されなければならない問題点は、電極と石英窓の距離が不安定電極反応生成物の検出限界に非常に大きく影響する。電極、窓が別々の構造では現在の1mmより小さくすることは不可能である。今後、透明電極を用い、光路上で電解できる測定系の構築を実現させるべく検討を開始している。
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