ナフィオンはプロトン導電性電解質として標準的に使用されているポリマーのイオン交換膜である。乾燥した状態では絶縁体だが、水分子が存在するとプロトン導電性が発現する。酸化力に対して安定性が高く、酸素の還元反応を行う燃料電池の固体電解質として用いられている。ナフィオンの問題点は価格が高いことである。また、80℃程度まで加熱しなければ十分な導電性が得られないことも問題点として指摘されている。ナフィオンが高価であるのはフッ素化されているためだが、他の安価なプロトン導電性ポリマーにはナフィオンに匹敵する安定性を有するものが存在しない。そこで、本年度は粘土層間化合物とナフィオンを複合化し、安価な代替材料の開発を試みた。 粘土層間化合物としてスメクタイトを用い、4種類の酸(ホウ酸、酢酸、リン酸、塩酸)で処理することによりH^+を層間に導入しプロトン導電体とした。この内酸性の小さいホウ酸はイオン交換反応が十分進行しなかった。他の3種の酸では層間のナトリウムが全てプロトンに置換した。室温から90℃までの範囲で導電率測定を行ったところ、昇温時と降温時では同じ温度でも導電率が異なるヒステリシスが観察された。これは層間に存在する水分子が昇温時に蒸発し失われるためだと考えられる。異なる水分量の粘土層間化合物を調製し、同様の測定を行ったところ、水分量が多いほどヒステリシスが小さくなったので、先の仮定が裏付けられた。この一連の試料の中で最も高い導電率は90℃の際に得られた10^<-2.5>Scm^<-1>であった。次に、これらをシート状に成形するため、ナフィオンのアルコール溶液と混合し、薄く塗布・乾燥させた。この複合体膜の導電率を粘土粒子とナフィオンの重量化を変化させながら測定した。その結果、粘土粒子の比率が増えるほど導電率が低下する傾向が得られた。これは混合した粘土粒子が低水分量のもので導電率がナフィオンより低いためである。より水分子を多く含むものでシートが形成できれば逆の傾向が期待できる。また、ヒステリシスは殆ど観察されないことから、粘土粒子をナフィオン膜が緻密に被覆し、水分の蒸発を抑制していると推測される。以上の実験結果から、ナフィオンは粘土層間から水分子が脱離することを抑制するので、最適量の水分子を配置した後に複合体化を行えば、大きな導電率の上昇が期待できる。
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