(1) 電場印加により、ポリ(N-ビニルカルバゾール)(PVCz)フィルム中では、顕著ではないが電荷の再結合がマイクロ秒以降で遅くなっていることがわかった。この結果は、前述の従来考えられてきたように、電荷移動錯体の直接の光励起の直後に約2nm程度のイオン対間距離をもつイオン対が出来るのではなく、連続的にホール移動が起こり、徐々に対間距離が大きくなっていくものと考えられることを示唆している。実験的に、相反する電場強度とフィルム厚みの関係から、過渡吸収スペクトルの電場効果の実験は非常に難しいことが分かった。 (2) ピコ秒時間域でPVCzフィルム中ホール移動過程の温度効果を検討した。光励起直後のホール移動速度定数には、温度効果が観測されず、電荷再結合定数にわずかに温度効果が観測され、その現象の考察を行った。 (3) 多孔性高分子吸着剤に吸着したこの種ビニルポリマーの長寿命電荷分離状態の生成と減衰過程について調べた。生成は光誘起電荷分離過程により、長寿命イオン種の減衰は長距離の電子移動過程による事が分かった。 (4) 種々の溶媒中フラーレンC_<60>の励起一重項と三重項状態の吸収スペクトルは、溶媒の屈折率や誘電率には相関せず、イオン化電位と相関し、それは励起一重項状態のC_<60>の形が歪んでいることによると考えられた。 (5) C_<60>とPVCzの二量体モデル化合物の間でのC_<60>励起による光誘起電子移動過程は、C_<60>の励起三重項状態を経て起こることが分かった。Cz環の励起では、Cz環から放出された電子が溶媒和電子となり、その後C_<60>にトラップされる形で、光誘起の電子移動過程が起こることが分かった。 (6) 極性溶媒中でPVCzとC_<60>の間で光誘起電子移動の関連する光化学反応が起こり、着色生成物(高分子)が得られ、そのフィルムは大きな光電導性を可視光領域に示す事が分かった。
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