π電子共役系を主鎖に有する高分子薄膜中の電荷移動機構を明らかにするために、電荷担体(キャリヤ)の移動度をドープ率の関数として評価する新しい電気化学的手法を開発した。代表的な導電性高分子であるポリ(3-メチルチオフェン)(PMT)膜を電気化学的に作製し、上記の手法で移動度を測定した結果、ドープ率の増加と共に移動度は4桁上昇することが見出された。ドープ率の変化に伴う高分子中の化学種の変化をin-situ電子スピン共鳴法で調査することにより、移動度の増加が2個のポーラロンから生ずるバイポーラロンの生成に対応することが見出された。また、バイポーラロンがある濃度に達すると金属的な伝導が始まることが明らかとなった。一方、低ドープ率での電荷移動過程はポーラロンによるものであるが、ポーラロンが高分子主鎖を伝わって動くのか、あるいは高分子鎖の間をホッピングするのかを明らかにするために、高分子主鎖をSi原子で区切り主鎖内の電荷移勤を規制した高分子(MS5T-OEt)を用いてPMT膜と同様の測定を行った。MS5T-OEtを用いるもう一つの理由は、この高分子膜中で生成する反磁性化学種がバイポーラロンではなく、π-ダイマーであることか知られており電荷移動機構へのπ-ダイマーの影響を明確に結論できることにある。MS5T-OEt膜中の移動度はドープ率の増加によって変化せず、むしろ減少する傾向が見られた。また、低ドープ率領域での移動度はPMT膜中に移動度と同じオーダーであった。以上の測定結果を整理し、以下の結論を導くことができた。 1)ポーラロンの移動はπ電子共役主鎖のみでなく、鎖間でも起こる。 2)π-ダイマーは高分子中の電気伝導に寄与しない。 3)PMTなどの導電性高分子中で生成する反磁性化学種はπ-ダイマーではなく、バイポーラロンである。
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