平成10〜11年度にわたって開発した、ドープ率の関数として移動度を評価する電気化学的な手法を種々の導電性ポリマーに適用し、以下のような知見を得た。 1 高度に配向したregioregular POT薄膜においては、ドープ率の増加と共に移動度は一旦減少した。その原因はπ-ダイマーの生成と電荷の散乱によるものと結論された。また、ドープ率が2%を越えたあたりから急激な移動度の増加が観測されたが、その原因は金属伝導の開始を示すものと判断した。 2 ポリチオフェン薄膜のドーピング過程を詳細に検討し、従来の定説であった容量性の電気量の存在を否定すると共に、異常性の原因が高分子薄膜の過酸化にあることを見出した。 3 3位にメチルを有しないポリチオフェン薄膜の移動度を評価した結果、全てのドープ領域にわたってPMT薄膜の移動度より一桁程度小さいことを見出した。ポーラロンのホッピング伝導から金属伝導にいたる過程でこのような現象が見出されたことは、導電性ポリマーの電荷移動機構を議論する上で重要である。 4 高分子主鎖をSi原子で区切り、主鎖内の電荷移動を制限した高分子(MS5T-OEt)を用いて移動度測定を行った結果、ドープ率の増加によって移動度は顕著な変化をしないことを見出した。この事実は、電荷の移動が高分子鎖内ではなく、鎖間で起きていることを示している。
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