物理気相成長法(PVD法)の一種であるスパッタ法は、蒸着が困難な高融点材料や化合物でも比較的容易に薄膜作製が可能であり、また、蒸発源が原理的に点である真空蒸着法と比べ、スパッタターゲットは基板と同程度のサイズ(幅)を持つ面なので、スパッタ成膜法は、安定した、大面積への均一なコーティングにおいて大きな優位性を持っている。本研究では、このスパッタリング法による低比抵抗錫をドープした酸化インジウム(ITO)薄膜の形成プロセスに関して基礎的な知見を得るため、広範囲でのプラズマパラメータ制御が可能であるRF-Enhanced DC Sputtering法で成膜パラメータ(特に種々の放電パラメータ)と作製した薄膜の結晶性との相関を調べた結果、薄膜の結晶性を支配している要因を明らかに出来た。RF放電でDC放電をアシストすることにより、通常のDCのみの放電と比べて半分以下のガス圧でスパッタ成膜が可能となり、さらにこのRFアシストがITO薄膜の結晶性を飛躍的に向上させた。また、スパッタ法で成膜したアモルファスITO薄膜の結晶化にともなう電気物性を詳細に調べることで、不純物ドーパントによる価電子制御機構、並びにキャリア散乱機構に関する研究を行った。この結果、アモルファス構造のITOの結晶化にともないSnがInサイトに置換型固溶し電気的に活性になる過程が詳細に観察できた。さらに、分子線エピタキシー法によって、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)単結晶基板上に、結晶性の極めて優れたヘテロエピタキシャル酸化インジウム薄膜の形成法も確立した。これによって、ITOの導電機構を解明して行くための再現性の良いサンプル作製手法を確立できた。
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