研究概要 |
近年の精密有機工業化学の課題の一つが不斉合成の新しい手法の開発であることは言うまでもない。こうした観点から、我々は分子内不斉オキシパラジウム化を軸とするヒドロキシアルケンの環化反応の関する研究を行った。本年度は、工業原料として入手容易なアリルアルコール類を基質に選び、プロキラルオレフィンへのオキシパラジウム化を軸とする交差環化反応について検討した。その結果、プロキラルアルケンとしてビニルエーテル類を用いると、この環化反応は触媒的に進行することが分かった。既に我々は、アミド系配位子を持つPd-Cu二核錯体は、分子状酸素下でアルケンの高性能な酸化触媒となることを見出している。この知見を基にして、尿素誘導あるいはオキサミド系化合物を、Pd(OAc)_2/Cu(OAc)_2/O_2からなる触媒システムに組み込むと、本環化反応の触媒活性が著しく向上することが判明した。例えばシンナミルアルコールとエチルビニルエーテルからの2-エトキシ-4-フェニル-2,3-ジヒドロピランの合成では、触媒系にN,N'-ジメチルプロピレンウレアあるいはN,N'-ビス(1-フェニルエチル)オキサミドを組み込むと、従来よりも触媒効率が向上し、先に述べたジヒドロピランがそれぞれ84%と93%収率で得られることが分かった。さらに、この反応の不斉化に関する研究に着手し、光学活性ビスオキサゾリン型配位子、例えば2,2'bis[(4S)-4-benzyl-2-oxazoline]を触媒系に組み込むと、対応する光学活性ピラン誘導体が42%ee(7〜16%yield)で得られることも分かった。
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