本研究は、ペプチドおよびタンパク質を科学的な方法で選択的に変換する触媒系を開発することを目的とし、以下の2種類の反応について検討した。 (1)グリシンが多核金属錯体によって強力に活性化され、アルデヒドと穏和な条件下で反応する。これによってペプチド中のアミノ酸残基の化学変換ができる。 ・一般的にオリゴペプチドについてこの反応が進行することを示した。また、N末端のグリシン残基のみが選択的に化学変換されることを明らかにした。 ・二核および三核銅中心分子がこの反応を効率的に促進し、初めて触媒的に反応を進行させることを見い出した。 ・三核銅中心分子を用いて長時間反応させると脱アミノ化を伴うアミノ酸残基の分解反応も進行することが明らかとなった。この三核銅中心分子は酸化触媒としても有用であり、例えば過酸化水素存在下でシクロヘキセンを酸素化することができた。 (2)アミノ酸残基側鎖の水酸基と亜鉛(II)の協同触媒効果により、中性条件下でペプチドを配列特異的に加水分解切断できる。 ・オリゴペプチドについて、この反応によって配列特異的切断ができることを示した。また、適当なアミノ酸残基(His)を近傍に配置することで金属イオンの結合を強めれば、加水分解切断を、より効率的に行えることを明らかにした。さらに、速度論的検討を行い、反応機構の詳細を明らかにした。 ・ペプチド側鎖にアルキル基が存在する場合、立体障害として加水分解反応速度を低下させる効果と、逆に反応速度を増大させる効果が見られることを明らかにした。β位で分枝しないアルキル側鎖をもつペプチド(Leu-Ser等)は側差をもたないGly-Serに比べてより効率的に加水分解できることが明らかとなった
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