これまでに、環状オリゴ糖であるシクロデキストリン(CD)の持つ疎水性空洞を酵素の基質結合部位に見立て、そこに触媒官能基を導入することにより人工酵素を構築してきた。その際に、2つの基質結合部位をリンカーで結合し、基質結合部位間に協同的な効果を発現させ、より高度な人工酵素を構築しようというのが、本年度の研究目標である。そこで本年度は、触媒官能基の両側に基質結合部位であるβ-CDを配置したCDダイマーを合成した。触媒官能基としてベンゾイン縮合反応を触媒するチアゾリウム基を導入した。ベンゾイン縮合反応は、2分子のアルデヒドが縮合する反応であるが、β-CDは、1分子のアルデヒドしか包接することができない。したがって、CDダイマーにおける2個のβ-CDが適切な配置の場合、反応の大幅な加速が期待できるが、β-CDの配置が不適切な場合、β-CD1分子に触媒官能基を導入した人工酵素と同程度の加速効果しか得られないと思われる。そこで、触媒官能基と基質結合部位との相対配置と触媒活性との相関を調べる目的で、CDダイマーを合成する際のリンカー部分の長さを変えた2種類のCDダイマーを合成した。 リンカーとしてアスパラギン酸を用いたCDダイマーに触媒官能基であるチアゾリウム単位を導入した人工酵素(1)及び、リンカーとしてグルタミン酸を用いた人工酵素(2)を合成した。比較のために、アミノ化β-CDにチアゾリウム単位を導入した人工酵素(3)も合成した。 得られた人工酵素のべンゾイン縮合反応に対する触媒活性を、基質としてベンズアルデヒドを用いて測定した。人工酵素(2)の触媒活性は、人工酵素(3)のそれとは同程度であったが、人工酵素(1)の触媒活性は、それらの2倍以上もあり、リンカー部分の長さが、ベンゾイン縮合反応のような2分子反応には重要であることがわかった。
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