昨年度に引き続き複合型ホスト分子の人工酵素としての機能性評価を行った。炭素-炭素結合反応を有効に触媒する人工酵素を構築する為には、2つの基質結合部位間に協同性を持たせる必要がある。シクロデキストリン(CD)を基質結合部位に利用した場合、2分子のCDの相対的配置および触媒官能基とCDとの配置が重要になってくる。 そこで、昨年度、リンカーとしてアスパラギン酸を用いたCDダイマーに触媒官能基であるチアゾリウム単位を導入した人工酵素(1)及び、リンカーとして炭素数が一つ長いグルタミン酸を用いた人工酵素(2)を合成し、また、比較のために、β-CD1分子にチアゾリウム単位を導入した人工酵奉(3)も合成した。そして、ベンゾイン縮合反応に対する触媒活性を、基質としてベンズアルデヒドを用いて測定した。人工酵素(2)の触媒活性は、人工酵素(3)のそれとは同程度であったが、人工酵素(1)の触媒活性は、それらの4倍も大きく、リンカーの長さが、ベンゾイン縮合反応のような2分子反応には重要であることが明らかとなった。 そこで、本年度、人工酵素(1)と人工酵素(2)との触媒活性の違いがそれらの構造的要因によるものであると推定し、人工酵素の構造をコンピュータを用いた分子動力学的手法により推定した。人工酵素(1)は、基質結合部位であるCD2残基が向かい合った構造をとっており、縮合反応に適していることが明らかとなった。一方、人工酵素(2)のCD2残基は、離れた位置に存在する確率が高く、縮合反応には適さないことが明らかとなり、触媒活性の違いがCDダイマーの構造の違いによるものであることが明らかとなった。 次に、基質としてアニスアルデヒドの位置異性体を用いて触媒活性の評価を行ったところ、反応の進行に伴う構造変化に対応できるような構造的自由度が人工酵素には必要であることがわかった。
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